広島大学

研究拠点についてResearch

研究内容

 水素社会の実現には,大量の水素を貯蔵・輸送する水素エネルギーキャリアが不可欠です.アンモニアは,高い質量水素密度をもち,液化が容易にでき,高い体積水素密度もつため,水素エネルギーキャリアとして優れています.
 本研究拠点は,化学工学,材料科学,環境工学の分野融合型研究を進めることで、アンモニアを水素エネルギーキャリアとして利用するための実用技術を開発することを目的としています.同時に,人材育成に積極的に取り組み,水素エネルギーキャリア研究開発能力を有する優秀な若手人材を輩出することを目指しています.
 本研究拠点は,化学工学,材料科学,機械工学,生物工学,環境工学の異なる専門領域をもつ以下の4つの研究グループで構成され,各研究グループが連携することで,世界最先端のアンモニアを用いた水素エネルギーキャリア研究を推進しています.

 アンモニア合成グループ

化学工学のアプローチより,太陽熱を利用し,水からアンモニア原料であるCO2フリーの水素を合成する膜分離研究を行います.

 アンモニア貯蔵材料グループ

材料化学のアプローチより,アンモニア分解,除去技術等に関する研究開発を行います.

 アンモニア燃焼・利用グループ

機械工学と生物工学のアプローチより,アンモニア燃焼,利用技術等に関する研究開発を行います.

 安全性評価グループ

環境工学のアプローチより,水素エネルギーキャリアの製造,貯蔵,輸送,利用時の安全性評価を行います.

図1.窒素循環エネルギーキャリア研究拠点の概要

図1.窒素循環エネルギーキャリア研究拠点の概要

講演会

2020年1月23日(木),16:10~17:10,東北大学流体科学研究所,
小林秀昭 教授「アンモニアの直接燃焼利用と燃焼科学」

概要:アンモニアは水素エルギーキャリアであると共に、直接燃焼可能なカーボンフリー燃料である。水素バリューチェーンの最下流にあるアンモニアの直接燃焼利用は、発電や工業分野において温室効果ガス排出を抑制できる有望な将来技術として水素基本戦略や第5次エネルギー基本計画に明記されるに至った。内閣府主導による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」ではガスタービン、レシプロエンジン、工業炉、微粉炭ボイラー等のエネルギー機器におけるアンモニア直接燃焼の技術開発に成果を挙げてきた。本講演では、 SIP「エネルギーキャリア」におけるアンモニア直接燃焼に関する成果、ならびにアンモニア燃焼の課題である低燃焼性やFuel-NOx生成といった基礎特性を燃焼科学的視点から解説し、それらの課題解決に向けた方策を述べる。

2019年2月7日(木),16:10~17:10,日揮(株)プロセステクノロジー本部,
藤村靖 技術研究所長「エネルギーキャリアとしてのCO2フリーアンモニア製造技術開発」

概要:温暖化ガスの排出量削減に向けて,国内のCO2排出量の約40%を占める発電分野からのCO2排出抑制は喫緊の課題である.その解決策の一つが,燃焼時にCO2を発生しない「エネルギーキャリア」の利用である.当社は,内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)において,エネルギーキャリアとしてのアンモニアに関して,アンモニア製造から発電所への供給までのサプライチェーンの検討を行っている.本講演では,SIPで実施した再生可能エネルギーからのCO2フリーアンモニア合成技術の開発を紹介する.さらに,産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)におけるアンモニア合成の実証試験において,再生可能エネルギー用いた水素・アンモニア製造,製造したアンモニアを燃料とするガスタービンによる発電という我々が目指すアンモニアバリューチェーンを模擬的ではあるが実現に成功したので,これらの概要を紹介する.

2019年10月7日(月),16:10~17:10,横浜国立大学先端科学高等研究院,
三宅淳巳 教授「水素ステーションのリスクアセスメントと社会実装」

概要:水素エネルギー社会の構築に向けて多くの技術開発が進められている。そのうちの一つに燃料電池自動車に高圧の水素を充填するための水素ステーションがあり、設計・開発段階から導入期を経て、現在は普及のステージに入っている。一方、水素は着火・燃焼・爆発性の高い可燃性ガスであることから、公共の安全を確保するために高圧ガス保安法を始めとする各種の法規制が定められており、これらへの対応が普及が進まない要因の一つとなっていた。本セミナーでは、演者らが行ってきた水素ステーションの安全性評価について紹介し、リスクアセスメントを実施することにより設備やシステムの安全要件を抽出し、適切な対策を施すことでリスクを制御して安全レベルを担保できることを示し、法的要求事項を満たすとともに社会の安全要求に応え、安心感のある技術システムとして社会実装する道筋について議論する。

2019年2月7日(木),16:10~17:10,日揮(株)プロセステクノロジー本部,
藤村靖 技術研究所長「エネルギーキャリアとしてのCO2フリーアンモニア製造技術開発」

概要:温暖化ガスの排出量削減に向けて,国内のCO2排出量の約40%を占める発電分野からのCO2排出抑制は喫緊の課題である.その解決策の一つが,燃焼時にCO2を発生しない「エネルギーキャリア」の利用である.当社は,内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)において,エネルギーキャリアとしてのアンモニアに関して,アンモニア製造から発電所への供給までのサプライチェーンの検討を行っている.本講演では,SIPで実施した再生可能エネルギーからのCO2フリーアンモニア合成技術の開発を紹介する.さらに,産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)におけるアンモニア合成の実証試験において,再生可能エネルギー用いた水素・アンモニア製造,製造したアンモニアを燃料とするガスタービンによる発電という我々が目指すアンモニアバリューチェーンを模擬的ではあるが実現に成功したので,これらの概要を紹介する.

2018年10月9日(火),16:10~17:10,産業技術総合研究所安全科学研究部門,
小野恭子 主任研究員「水素ステーションの定量的リスク評価と社会受容性調査」

概要:水素社会に向け燃料電池車等が普及するには,燃料電池車に水素を充填するインフラである,水素ステーションの導入が不可欠である.ステーションの普及には社会に受容されることが必要であり,そのために事業者および行政が「水素ステーションに万が一事故が起きた時の影響の大きさ」を市民に説明できることが望ましい.本発表では,水素ステーション,特に有機ハイドライド型水素ステーションにおける,事故時の影響の大きさを「リスク」という指標を用いて評価してきた産総研の取り組みについて紹介する.定量的リスク評価の枠組み,および各要素技術であるベイズ推定を用いた発生確率解析,急性・慢性毒性や爆風圧等によるヒトへの影響シミュレーションについての技術開発の動向についても述べる.後半では社会受容性調査の目的と枠組み,および結果について紹介する.本発表はSIP「エネルギーキャリア(エネルギーキャリアに関するステーションとその周辺に対するリスク評価手法開発と社会受容性調査)」の成果である.

2018年2月22日(木),16:10~17:10,中国電力㈱エネルギア総合研究所,
谷川博昭 マネージャー「アンモニアの発電利用に関する事業性評価」

概要:内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(以下,SIP)において,社会的に不可欠で,日本の経済・産業競争力にとって重要な課題の一つとして「エネルギーキャリア」が取り上げられた.SIP は,府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより,基礎研究から実用化・事業化までを見据えて一気通貫で研究開発を推進している.本研究は,SIP「エネルギーキャリア」に関する委託研究課題「アンモニア直接燃焼」により実施したものである.アンモニア直接燃焼技術は,CO2削減技術として将来的に有望であり,当社は,水素輸送に優れるアンモニアの直接燃焼について研究を進めている.本研究では,火力発電所におけるアンモニアの発電利用に関する事業性評価に資するデータを取得することを目的として,水島発電所2号機(石炭火力,所在地:岡山県倉敷市,定格出力:15.6万kW)において,アンモニア混焼試験を実施したので,その成果を紹介する.

2017年8月9日(水),16:10~17:10,産業技術総合研究所,
吉田喜久雄 名誉リサーチャー「化学物質の健康リスク評価」

概要:化学物質の健康影響のリスクは,ある特定の条件下で起こりうる化学物質への曝露によりヒトや環境生物に生じる有害な事象(死亡や,疾病等の健康影響)の発生確率とその結果の重大性と定義されます.リスクの判定結果に基づいて,化学物質を適正に管理するために意思決定が可能となります.化学物質へのヒトの曝露により生じうる健康影響には,事故等により大量漏洩した高濃度の化学物質への短時間曝露による急性影響と定常的に排出される低濃度の化学物質への長期間曝露による慢性影響があります.これらの急性および慢性の健康影響のリスクはいずれも;1)有害性の確認(ヒトに生じうる健康影響とその影響の重大さを確認します)2)量-反応評価(リスク判定に用いる発がん影響の発がんポテンシー,非発がん影響のヒト無毒性量を推定します)3)曝露評価(曝露されているヒト集団での化学物質の実際の曝露濃度や摂取量を推定します)4)リスク判定(量-反応評価と曝露評価の結果から対象のヒト集団での発がん影響や非発がん影響のリスクの発生の確率/可能性を推定します)の4段階から成るリスク評価の枠組みで評価されます.講演では,化学物質の健康影響リスク評価の枠組みを説明するとともに,アンモニアを例に急性および慢性の影響の有害性の確認と量-反応評価に関する既存情報の紹介,数理モデルによる曝露評価について説明します.

2016年12月19日(月),16:10~17:10,岡山大学大学院環境生命科学研究科,
齋藤光代 助教「流域スケールでの水循環にともなう窒素循環の研究」

概要:窒素は生命にとって必須の元素であり,地球上では大気圏,水圏,土壌圏およびその間において輸送され,生態系内で利用され循環している.この窒素循環は生物地球化学的循環の一部であり,水循環によって大きく駆動される.しかしながら,20世紀の加速的な人間活動により水循環も窒素循環も大きく歪められ,特にハーバー・ボッシュ法によるアンモニアの人工生産が開始されて以降は,地表水や地下水の窒素汚染,水域の富栄養化といったローカル~グローバルスケールでの環境問題が顕在化してきた.水循環にともなう窒素循環を考える上では,山地源流から沿岸海域を含む流域スケールでの議論が不可欠であり,さらに,単に窒素が溶存して輸送されるという表面的な見方にとどまらず,酸化還元過程にともなう窒素の形態変化や,微生物活動を中心とした生物生理との相互作用,あるいはそれらの生物地球化学過程と水循環という物理過程との相互作用についても考慮する必要がある.さらに,以上のプロセスに関する地域的多様性(気候,地形・地質条件,人間活動の影響など)を踏まえた議論も重要である.本発表では,流域スケールでの水循環にともなう窒素循環に関わる近年の研究動向を踏まえつつ,特に演者が取り組んでいる瀬戸内海沿岸域を対象とした研究事例について紹介する.

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